父の背中

目の前にある―――いつも目の前にあったその背中は、
こんなにも小さくて、こんなにも、大きい。


「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」

2017.8.25 マチネ 赤坂ACTシアター 1階D列10番台

出演:未来和樹、吉田鋼太郎、島田歌穂、根岸季衣、藤岡正明、小林正寛、大貫勇輔、山口れん、
   夏川あさひ、遠藤美緒、大久保妃織、佐々木佳音、高畠美野、新里藍那、笹川幹太、岡野凛音、
   森山大輔、佐々木誠、原慎一郎、竹内晶美、家塚敦子、高橋卓士、丸山泰右、三木麻衣子、
   大塚たかし、辰巳智秋、横沢健司、秋山綾香、加賀谷真聡、橋本好弘、木村晶子、井上花菜、
   北村毅、羽鳥翔太、小島亜莉沙、出口雅子


というわけで、「ビリー・エリオット」2回目を観てきました。
いやー、当然と言えば当然なのですが、ビリーが違うとこんなにも届いてくるものや後味が違うのですね。
これは全部のビリーを観たくなりますが、さすがにそれは難しく(^^;)
なので、出会うことのできた「ビリー」がら受け取ったもの、きちんと記録しておこうと思います。

未来和樹くんのビリーは、優しそうでちょっと気弱な感じの普通の男の子。
バレエに出会った時も、何かを見つけた!という感じにのめりこむのではなく、
周りの勢いに流されて、でも生来の負けん気もちょっと発揮して頑張っているうちに、
少しずつできることが増えて、同時に喜びが増えて、そして才能を発揮する感じ。
そんな風に、弾けるような勢いではなく、丁寧に、繊細にビリーの感情を紡いでいるように感じました。
特番で、もともと歌が得意、と言っていたように思うのだけれど、
そういった表情だけでなく、歌声でもきちんと感情を届けてくれました。
お母さんの手紙のシーンとか、彼が本当にお母さんのことが大好きで、
それ故にその小さな体の中に大きな喪失感を抱えていて、
どれだけお母さんの手の、声の、眼差しの温もりを求めていて、
けれど、その想いを多分家族には見せてはいない―――
そんな風に、母を亡くしてからの彼の時間を感じさせてくれるような歌声でした。
で、だからこそその後の「ただのおれの母ちゃん」という言葉が、
彼が受けてきた愛情を、彼が持っている愛情がにじみ出るような響きがあって。
あの瞬間の島田さんのウィルキンソン先生の表情とも相まって、なんだかたまらない気持ちになりました。

そして、1幕ラストの♪怒りのダンス も凄まじかった。
多分ね、彼はこの前に観た前田くんに比べると、ダンスに対しての“特別感”はあまり強くないと思う。
頭を経由せず、感情と体が直結しているような前田くんのダンスとは、多分そもそものスタンスが違う。
でも、あの光を放つような前田くんのダンスとは違った意味で、未来くんのビリーは凄まじくて・・・
1幕が終わって、彼が舞台から立ち去っても、私は立ち上がることができなかった。
彼に根こそぎ持って行かれた気持ちを取り戻すのに、動悸が静まるのに、とても時間がかかった。
そのくらい、この1曲の中での彼の変化は鮮やかだったし、その迸る怒りは目が離せないくらい鮮やかだった。
迸る鮮やかな怒りの後ろに、けれど、私には透明な涙が流れているように思えた。
全てを壊したい。
全て壊れてしまってもいい。
そういう感情の後ろに、未来への希求が見えた気がして―――もう、泣くしかなかった。

2幕が始まって、あの凄まじさが嘘のように、
(ふてくされてるけど)それまで通り穏やかな雰囲気を纏ったビリー。
歌う父の背中を見つめる眼差しは、本当に真摯で優しくて―――
多分、これまでも彼はこういう眼差しで家族を見つめ、そして家族の中で生きてきたのだと思う。
オーディションを阻まれても、バレエを禁止されても、あの時点で彼はそれを受け入れてた。
受け入れてたはずなのに―――一人になった瞬間に、彼は自分の中に生まれた“何か”に気づいた。
その“何か”に戸惑うように、同時に導かれるように踊り出した彼とオールダービリーとの♪白鳥の湖 は、
喜びがひたひたと満ち、そして溢れていくような静謐な高揚があった。
それは、あの♪怒りのダンス とは対極に位置するようで、でもとても近いように感じました。
満ち足りた笑顔で踊る彼を観て、ああ、この子はきっと踊り続ける、と思った。
感情を表に出すことが上手ではない少年が、踊ることでその想いを解き放つ。
それはまさに、ウィルキンソン先生が言っていたことに合致していて、
だからこそ彼のダンスは“特別”になり得るのだと。
だからこそ、お父さんは彼が星のように輝く未来を信じたのだと。
そう思いました。
♪電気のように も、それまでの彼の想いの変遷を凝縮したかのような歌声とダンスで、
お父さんが、そんな彼を愛しく、そして誇らしく感じているのに、
なんだか思いっきりシンクロしてしまったのでした。
いやもうほんとに母の視点でしたよ(笑)。

なんというか、本当にこの親子は愛しいなあ、と思ってみたり。
スーツケースに荷物を詰めるときの二人の様子とか、
じゃれ合うような二人のやり取りが、可愛いやら切ないやらで、ちょっとどうしようかと思いました(笑)。
あの、みんながどんどん遠ざかって行って、ビリーが舞台上の逆光の中で一人佇むシーンは、
とても綺麗で、優しくて、でも同時にこの上なく残酷で―――
あの瞬間、ビリーがどんな表情をしているのか、凄く気になりました。

ラストシーンで、マイケルに別れを告げたビリーは、客席通路を通って舞台を後にします。
少し俯いたようなその姿は、挑むのではなく、一歩一歩未来へと歩き出しているように見えた。
このビリーは大丈夫―――そう、思った。
ここまで、本当に自分でもびっくりするくらい泣いたけど、でも、最後は笑顔で彼を見送れた。
そんな、優しさと愛と希望に満ちたビリーでした。


余りに好みなビリーだったので、ビリーのことしか書いてませんが、他の方ももちろん素晴らしかったです!
吉田さんのお父さんは、やっぱり強くて弱いお父さんだったのだけれど、
息子たちに向かう不器用ながらもまっすぐな愛情が素敵でした。
多分、お母さんのことも同じように不器用ながら大切にしていて、
お母さんも、それをちゃんとわかっていて、
そんな両親だからこそ、ああいうビリーになったんだろうなあ、と思いました。
というか、今回藤岡トニーだったのですが、お父さんとの親子感がとんでもなかった!
これだけ似たもの親子だと、それはぶつかり合うって!と素直に納得してしまった(笑)。
上記のクリスマスのシーン、トニーもビリーと並んで座ってお父さんの背中を見ていたのだけど、
二人の表情が全然違っていたのも印象的でした。
ビリーが凪いだ表情でまっすぐにお父さんを見つめているのに対して、
トニーは困ったような、憤ったような、哀しいような・・・とても複雑な表情で、
お父さんの背中とビリーを観比べていたように思います。
お父さんと同じように不器用なトニーは、
きっとお父さんと同じように家族と故郷を守るために戦うんだと思う。
ストライキという戦いは負けてしまったけれど、多分そのスタンスは変わらない。
そんな在り方が、やっぱり愛おしいお兄ちゃんでした。

そんなふうにエリオット一家に目が行ってしまったせいか、
ウィルキンソン先生とアビーの関係性もとても気になりました。
お母さんがビリーの才能にのめりこんでいく様子は、
自分にはそれだけの才能がないとわかってしまうだけの聡明さのあるアビーにとって、
多分とても辛いことだったんじゃないかなあ・・・
それはもちろん私の勝手で感傷的な思い込みなのだけれど、
彼女がお母さんを見つめるときの表情や、ビリーへの言動を、どうにも深読みしたくなっちゃいました。
というか、この親子も凄いよく似てる(笑)。
きっとお家では二人がタッグを組んでいて、お父さんはタジタジなんだろうな(笑)。

マイケル役の山口くんは、小さくて元気な、やっぱり普通の男の子。
元気でちょっとお調子者な部分もあるけれど、
多分ビリーと同じように、彼の中にもたくさんのいろんな葛藤や不安や希望があって、
だからこそのあの振る舞いなんだろうなあ、と思ってしまった。
やっぱり“特別感”は強くないのかもしれないけれど、
そういう等身大の在り方がとても魅力的に見えました。
最後、幕が降りはじめるまでずーっとビリーを見つめる姿は、どこか危うい感じもあって・・・
ビリーとの対比に、ちょっと不安になってしまいました。
うーん、この子にも幸せになってほしいなあ。

アンサンブル、というよりも、この街で生きる人たちもとてもリアルで鮮やか。
歌声の重なり合いはとても綺麗だし、ダンスも圧巻!
炭鉱夫たちと警官がぶつかり合うシーンは、最前列だったこともあって、
怖くて思わず体が後ろに引けてしまう(というか椅子にへばりついてしまう)くらいの迫力でした。
炭坑の街に生きる人たちそれぞれの関係性を想像するのも面白くv
小林さんのジョージは、多分この街の炭鉱夫の代表的な感じかな。
ストライキを率いる、というよりも、街の人たちを勢いと愛嬌で纏める感じ?(え)
素直じゃないところがこっそりツボでした(笑)。
クリスマスのシーンでお父さんが歌っている時の表情も良かったな。
そういえば、ラスト近く、試験に受かったビリーを祝って(?)踊り出したとき、
小道具が落ちて割れちゃって(^^;)
殆どジョージが拾ってたけど、最後に一個残ったのをすかさずビリーが拾ってました。
動じないとこ、結構大物?(笑)
大きいと言えば辰巳さんのビッグ・デイヴィですが(え)、
レッスンのシーンのこの方のダンスの切れの良さには、前回も今回も目を見張りました(笑)。
そういえば、このシーンのウィルキンソン先生とビリーの雰囲気って、
ちょっとだけ「クレシダ」のシャンクがスティーヴンに演技指導するシーンに通じる気がしたんだけど、
・・・うん、たぶん気のせい(笑)。

そして、前回に引き続きの大貫くんを探せ!ですが、
多分ほぼ見落とさずにチェックできたのではないかと(笑)。
めっちゃ笑顔な牛も、グラスゴー出身のダンサーのインパクトも凄いですが(え)、
やっぱり特筆すべきは当然のことながらオールダー・ビリーですよね。
ビリーが異なると、♪白鳥の湖 のシーンも伝わってくるものが違うなあ、と思いました。
今回は、時間軸がどうこうというのは全然感じなくて。
素直に、ビリーが夢見た未来、
あるいはあの喜びと幸せに満ちた時間が束の間引き寄せた未来なのかな、と思いました。


そんなこんなで、2回続けてかなり前方席で堪能させていただきました。
・・・ドライアイスのスモークも(笑)。
事細かに表情が見えたり、ビリーの傍にいるような気持ちになれるのは凄く嬉しかったけど、
やっぱりかなり消耗しました(^^;)
それだけ伝わってくるものの大きい舞台なんだろうなあ。
この日は学生さんの団体も入っていたのだけれど、
彼らがどんな感想を持ったのか、ちょっと気になりました。
とりあえず、一度は後方席から全体を見てみたい・・・というかビリー全員観たい!
うーん、どうにかならないものかなー(笑)。

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