彼の翼

繋がれても。
落とされても。
一度は地に伏しても。
それでもあの空を目指す―――彼の、翼。


「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」

2017.9.9 ソワレ 赤坂ACTシアター 2階A列20番台

出演:加藤航世、益岡徹、島田歌穂、根岸季衣、藤岡正明、小林正寛、大貫勇輔、城野立樹、
   夏川あさひ、小野梓、久保田まい子、近貞月乃、並木月渚、堀越友里愛、笹川幹太、菊地凛人、
   森山大輔、佐々木誠、原慎一郎、竹内晶美、家塚敦子、高橋卓士、丸山泰右、三木麻衣子、
   大塚たかし、辰巳智秋、横沢健司、秋山綾香、加賀谷真聡、橋本好弘、木村晶子、井上花菜、
   北村毅、羽鳥翔太、小島亜莉沙、出口雅子


というわけで、3度目にして初めての2階席からの観劇となりました。
実は、前回の観劇の後、どうしても2階席から観たくて、チケットを追加しまして(^^;)
いやでも、追加して良かった!と心から思いました。
2階席からだと、もちろん役者さんの表情はあまりよく見えないのですが(オペラグラス苦手で・・・)、
照明の美しさや、床に交差する光の帯や、壁に描き出される大きな影の効果も素晴らしかったし、
舞台全体を見ることで、炭鉱の町の人たちの新たな関係性に気づいたり、
サッチャー人形の大きさに目を見張ったり(笑)と、
女の子たちのわちゃわちゃが、とんでもなくかしましくて、パワフルで、可愛かったり、
(負けるなビリー、頑張れ!って思っちゃったよね(^^;))
2階席だからこそ届いてくるものがあったように思います。
中でも一番衝撃であり、且つ印象的で息をするのも忘れるほど見入ってしまったのが、
ドリームバレエのシーンでした。


この日のビリーは加藤くん。
細い腕と華奢な首筋、綺麗な背中のラインがとても印象的な男の子でした。
この子にボクシングをさせるって、お父さんスパルタすぎ!ってまず思い(笑)、
そして、バレエ教室に紛れ込んで、寝転がって上げた足の真っ直ぐさに、
この子は踊るための特別な才能を持っている子なんだ、と、すんなりと納得できてしまう感じでした。
戸惑いながらも心惹かれ、何度も失敗しながらも、最後には滑らかなピルエットを習得した時のあの笑顔。
細っこくって小さな男の子が、踊っている時には特別な存在になっていった。
踊りの端正さだけでなく、溢れるような何かがあった。
それは、もしかしたら彼の中の“空白”から溢れ出たものなのかもしれない・・・
オーディションのためのレッスンをする彼を見て、何だかそんな風に思いました。
何故なら、加藤くんのビリーは、お母さんの死をきちんとは受け止めきれていないように思った。

ウィルキンソン先生の声を引き継ぐように、何度も何度も読んだ母の手紙を暗唱するビリー。
その直前、俯いた横顔には、照明の効果以上の影があったように見えた。
幻の母に触れる手も、その高く綺麗な歌声も、2階席から見えるはずもないのに震えているように感じた。
ああ、この子の中には、母の不在というぽっかりと空いた虚(うろ)がある。
その虚を、空白を埋めることができずにいた彼が、バレエと出会った。
バレエと出会い、けれどバレエがその虚を埋めたのではなく、なかったことにしたのでもなく、
彼本来が持つ力が、輝きが、自らその虚を虚のままで埋めていった。
そして、その輝きは、大きな翼のように彼の身体を空へと舞い上がらせようとしている。
そんな風に思いました。

だからかな、♪angry dance のシーンでは、彼が小さな小鳥のように見えました。
窓の外に広い青空が見えているのに、地に繋がれ、窓にぶつかり、
それでも何度も何度も羽ばたこうとする小鳥。
羽ばたく力があるのに、羽ばたくことを阻まれた小鳥。
最後、倒れ伏した彼の姿は、羽を折られた小鳥のように見えて―――
なんだかたまらない気持ちになりました。

でも。
彼の翼は折られてはいなかった。
強要されるのではなく、求められるからではなく、誰かのためでもなく、
もしかしたら自分自身のためでもなく―――彼は、ただ踊る。
踊るための、羽ばたくための翼があるから、踊る。

ドリームバレエのシーンは、2階席から観るとまるで星空の中のようでした。
星のような無数の光。
流れていく薄い雲のようなスモーク。
その中で踊る二人のビリーは、私には“一人”のように見えた。
過去でも、未来でもなく、同じ時を生きる一つの存在として二人を感じたのは初めてで、
吸い込んだ息を吐くことも忘れて、鳥肌の立つ腕をきつく握りしめながら、
星空の中を自由に飛び回る“ビリー”の姿に、ただ見入ることしかできませんでした。
ああ、この子には翼がある。
飛び立つための力がある。
踊り続ける、運命がある。
そう、思いました。
2幕終盤、♪ELECTRICITY のシーンで、この曲の歌詞がこんなにもクリアに、
有無を言わさぬ説得力を持って届いてきたのも、多分彼の翼があったから。
軽やかに、自由に、美しく、解き放たれるように踊るビリーの姿はとても自然で、
鳥が飛ぶのと同じ理由で、ビリーは踊るのだと、そんな風に感じました。
これを見てしまったら、もう彼が飛び立つことを止められる人は誰もいないよね。
そのくらい、踊るビリーの姿は自然体だったように思います。

ダンスのシーンばかり書いてしまったけど、加藤ビリーは演技もとても滑らかだったなあ、と思います。
お父さんやお兄ちゃんとの距離感が凄く近くて、近いからこその反発とか辛さが感じられた。
ビリーが旅立つ時のお兄ちゃんとのやりとりや、振り返ったお父さんの表情が、本当に愛情に溢れていて。
客席からは見えないけれど、逆光の中立ち尽くすビリーも、きっと同じような表情をしていたはず。
そして、たぶんこの時のビリーは、お母さんの死をきちんと受け止めていた。
お母さんの死を、その痛みを、自分とものとして受け入れてた。
母の死は、別れではあるけれど喪失ではないのだと、そんな風に落とし込んだように見えました。
だから、あの「さよなら」は、切なくはあったけれど、悲しくはなかった。
2階席からだと、客席通路を歩いていくビリーの表情は見えなかったけれど、
でも、このビリーはきっと柔らかい笑みを浮かべながら、けれど毅然と前を向いていたのではないか。
そんな風に思いました。


今回初めてだったのが、益岡さんのお父さん。
凄く知的で、めちゃくちゃヘタレなお父さんだなあ、と思いました。
このお父さんこそ、ほんとにお母さんの死から全く立ち直ってないんだな、と。
トニーの粗大ごみ発言に、なんだか凄い説得力を感じてしまった(^^;)
上手く言葉にできないけど、スト破りのバスに乗ったあと、
トニーとぶつかり合うシーンで涙が溢れたのは初めてだった。
息子たちを愛おしいと思って、大切に思って、
でもそれを伝える術を、力を、妻の死とともに無くしていて―――
でも、お父さんは取り戻した気がする。
お父さんの中にできた、愛する妻の不在という大きな虚。
それを埋めたのは、多分ビリーから溢れ出た輝きであり、トニーの真っ直ぐな激情だったのではないかな。


マイケル役も初見の城野くん。
なんというか、凄く複雑な内面を持った子だな、と思いました。
結構ハスキーな声だったけれど、声変わりの始まりくらい?
それとももともとこういう声の子なのかな?
ボーイソプラノという感じではなかったせいか、子どもと大人の境目のような、
危うさというか不安定さが感じられると同時に、
それを突き抜けるような明るさがとても印象的でした。
そのアンバランスさが個人的にはかなり好きな感じでした。
ビリーにちょっかいかけるのも、ちゃんと根底にビリーへの気遣いが感じられた気がします。
この子は、ビリーよりも前に、いろんな葛藤を乗り越えてきてるんじゃないかなあ。
ラストシーンのマイケルの表情には、ついつい注目してしまうのですが、
この日は2階席で細かな表情は見えなかったにも関わらず、
少年が大人になった瞬間を目撃したような気持ちになりました。
緞帳が降りる直前、一瞬空を見上げるようにして自転車をこぎ出したマイケル。
―――あまりに切なくて、でもどこか晴れやかで、なんだか泣き笑いみたいになっちゃいました。


うーん、一期一会なビリーにどうしても注目してしまうので、
アンサンブルさんに対しては、全然ちゃんと観れていないのが凄く悔しいなあ。
歌詞もやっと聞き取る余裕が出てきたので、アンサンブルさんの歌声の時には、
こんなことを言ってたのか!とちょっとびっくりしたりしてました(笑)。
ビリーにカンパするシーンは、場合によっては凄く偽善的なシーンになってしまうとおもうのだけれど、
あの閉塞した状況の中で、自分たちには思いもかけない方向で飛び立っていこうとする少年を、
あの場にいた全員が、何らかの思いを、望みを、希望を託すような切実さと哀しさがあって、
ちょっと泣きそうになってしまいました。
それにしても、あの最後にみんなが炭坑に降りていくシーンは、
2階席から観てもほんとに荘厳で美しいシーンだな、と思う。
あれ? そういえば今回は残酷だとは思わなかったな。どうしてだろう・・・?


そんなこんなで、私の「ビリー・エリオット」はこれで見納めとなりました。
たった3回―――いや、3回も、だな。
3回ともそれぞれに素晴らしい空間と時間を体感させていただいたから。
それぞれのビリーの唯一無二の魅力には、毎回気持ちを持って行かれました。
ご縁がなくて観ることのできなかったビリーも、きっと凄かったんだろうと思う。
できることなら全員のビリーを、マイケルを、デビーを観たかったけれど・・・
うん、まあ、これもご縁だからね。
この舞台は気軽に再演できる舞台ではないけれど、今回の成功(だよね?)を糧に、
その時々の才能を見出し育てながら、長く上演して行ってほしいと思う。
でもって、この舞台を経た子役くんたちが担うこれからのミュージカル(に限らないと思うけど)シーンを、
一舞台ファンとして楽しみにしていようと思います。

大阪公演を入れても、残り賞味1ヶ月くらいでしょうか。
それぞれの回の、それぞれのビリーに、マイケルに出会う方たちが、
私と同じように、いや、それ以上の何かを受け取れますように。
子どもたちが、未来に繋がるその翼をどんどん大きくしていけますように。
みなさんが、怪我なくゴールへたどり着けますように。
いつかまたビリーたちに出会えることを夢に見つつ、心からお祈りしていようと思います。

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