彼が飛び越えた柵(さく)。
彼女が解き放たれた柵(しがらみ)。
その先に待つのは、どんな世界なんだろうか。


「屋根の上のヴァイオリン弾き」

2017.12.9 マチネ 日生劇場 1階XA列一桁台
2017.12.29 マチネ 日生劇場 1回XC列20番台

出演:市村正親、実咲凛音、神田沙也加、唯月ふうか、入野自由、広瀬友祐、神田恭兵、今井清隆、
   石鍋多加史、青山達三、廣田高志、荒井洸子、園山晴子、香取新一、祖父江進、日比野啓一、
   山本真裕、北川理恵、鳳蘭 他


日本初演から50年、市村テヴィエになってから13年というこのミュージカル。
私自身は、市村テヴィエになってから、それぞれ1~2回ずつ観てきた程度。
熱狂的に通い詰めることはないけれど、観るたびに良い舞台だなあ、と思います。
そして、その時の自分の知識や興味の先に、かなり受け取り方が左右される舞台でもあります。
確か以前観た時には、「コースト・オブ・ユートピア」を観た後だったせいか、
ユダヤ人とロシアの関係に目が行った記憶が。
今回も居酒屋のシーンでは、ユダヤ人とロシア人の関係性に、ちょっと泣けてしまいました。
結婚の約束というおめでたいニュースに対して、祝おうとするロシア人と、
戸惑いながらそれを受け入れるテヴィエたちユダヤ人。
彼らは、飲むお酒も、祝い方も、歌も(神田くんの歌素晴らしかった!)踊りも、
しきたりというか文化が違う。
その祝いの表現についても、ロシア人の熱量とユダヤ人の熱量はまるで違っていた。
違っていたけど、でも、あの瞬間、そういう違いも全部一緒くたにして、
かれらの気持ちは確かに融合していたと思うのです。
でも、その後に描かれるのは、ユダヤ人に対する無意識の中での蔑みと差別であり、
決して受け入れることのできない宗教の違いという足場であり、
そして、逆らうことのできない現実で―――そう思ったら、
なんだかほんとに泣けて泣けて仕方ありませんでした。

で、今回は、「また、桜の国で」を読んだり聴いたりしたせいか、
アナテフカから旅立つツァイテル夫妻とチャヴァ夫妻の行き先がポーランドだということに、
なんだかちょっと鳥肌が立つ思いでした。
この物語はここまでしか描かれないけれど、この先も彼らは生きていくわけで。
その未来が、どれだけ過酷なものなのか。
彼らが笑顔で再会できる日が来るのか。
それは誰にも分らない。
いや、むしろそういう未来は来ない可能性の方が高いのかもしれないし、
彼らはちゃんとそのことを理解していたと思う。
でも―――だからこそ。
黄昏の中、夜に向かって旅立っていく彼らのその先に、常に光あれ、と。
そう、願わずにはいられませんでした。

そんなことを思いつつ、毎回のことながら、今回も3姉妹それぞれの恋愛模様も楽しませていただきましたv

実咲さんのツァイテルと入野くんのモーテルは、何というかテヴィエとゴールデとのそっくり感が、
なんとも微笑ましくて仕方ありませんでした(笑)。
一見たおやかで控えめで、ちゃんと旦那さまを立ててるけどしっかり主導権も握っているツァイテルと、
気弱だけど、やるときはやる!なモーテル。
二人でいることは本当に自然な感じで、一番安心感のあるカップルだったなあ、と思いました。

沙也加ちゃんのホーデルと広瀬くんのパーチックは、とにかくあの身長差にときめいた!
頭でっかちで怖いもの知らずで危ういけど、まっすぐに人も世界も見つめているパーチックと、
(あの無駄なキラキラ感がとんでもない説得力を創り出してた気が・・・(^^;))
そんな彼と共に世界へ飛び出そうとするホーデル。
理性的で、革新的で、でもどこか臆病な二人が、何かを飛び越すかのように心を通わせていく様は、
ハラハラする部分もあるけれど、でも揺るがない強さのようなものも感じました。
それは、多分沙也加ちゃんのホーデルの在り方によるんだろうな、と思う。
以前から言ってますが、私はほんとに役者である沙也加ちゃんの大ファンで。
彼女の歌声はもちろん、表情が伝えてくるものの鮮やかさにいつも感嘆してしまうのですが、
今回も例にもれず、でした。
冒頭の曲でみんなと踊っている時からはっとするような美しさなんですが
この時のホーデルって、なんというか人形みたいなんですよね。
瞬きしてるのかな?って思わず見つめちゃったくらい。
綺麗で賢くて、でも賢いがゆえに、自分の将来に対して許される範囲の夢しか見ていない。
見ないようにしている―――諦めている。
そんな人形のように良くできた彼女が、彼の手をとって飛び越した柵(さく)―――柵(しがらみ)。
そこで初めて彼女は、自分が本当に息をできる場所を見つけたのかもしれないあ。
でも、その先に在るのは、暖かく守ってくれる家族のいない、厳しく冷たい場所。
それでも、パーチックと共に生きていくことを彼女は自分で選び、
そしてそのことにちゃんと責任を持つだけの覚悟があったのだと思う。

ホーデルの旅立ちのシーンは、ぼろぼろ泣いてしまいました。
パパに向かって歌っている時の凛とした表情と、
パパに背を向けている時の不安に押しつぶされそうな表情。
パパのマフラーの先をそっと握るその手。
立ち去ろうとするパパを呼び留めるときの、子どものような声―――そして慟哭。
そんなホーデルを抱きしめるテヴィエの表情と、突き放すようにその背を押す手。
あそこで、テヴィエはホーデルを引き留めることもできただろう
行くなと、ここにいろと、自分が守ると、言うこともできた。
そして、もしかしたらホーデルも、そう言われることをどこかで望んでいたのかもしれない。
でも、テヴィエはそうしなかった。
そうはせずに、彼女の背中を押した。
それはたぶん、ホーデルの覚悟に対する、テヴィエの尊重の表れで。
心が引き裂かれるように感じながら、それでも彼女の背を押し、そして神に祈るテヴィエと、
パパの意図をちゃんと受け取って、泣き濡れた顔を毅然と上げて前を向くホーデルと、
その二人の間にある確かな愛情と信頼と、そしてその根本となる彼ら家族の時間の深さ。
台詞のないあの数瞬の濃密さに、感嘆するばかりでした。


ふうかちゃん演じるチャヴァは、一番無邪気で華奢で可愛らしい存在なのだけれど、
その頑固さはたぶん姉妹隋一なんじゃないかなー、と思ってしまいました。
パパに二度とフョートカに会うな、名前も口にするな、と言われた後、
一人佇む彼女が浮かべた決意と、そして淡い笑みに、実はちょっと鳥肌が立ちました。
ああ、この子には、もうパパの言葉は届かないんだ、って。
パパも、家族も、神様すら、彼女の中に生まれた愛情を揺るがせることはできないんだって。
その頑なさは、もの凄く危なっかしく感じたのだけど―――
でも、神田くんのフョートカが、そういうチャヴァをちゃんと見守っているので、
ちょっとほっとしてしまいました。
神田くん、めっちゃ若返った?!ってびっくりするくらい初々しいフョートカだったのですが、
モーテルみたいに勇気を振り絞ってパパに直談判するわけではなく、
(でも、それを望まれればちゃんとできるんだろうな、って感じた)
パーチックみたいに自分の考えを口にするわけでもなく、
(でも、言えって言われたらちゃんと前に出て言える子だと思う)
彼は真摯にチャヴァに向き合い、深く彼女を愛して、そして常に彼女の隣で彼女を見つめ支えていた。
それって実は、凄く難しいことなんじゃないかな。
でも、そういうスタンスで隣にいてくれることって、チャヴァにとってとてつもない安心感があって、
そして、だからこそ彼女は彼の隣にいることを選んだんじゃないな、って思う。
そういう、二人の距離感、結構好きでした。

鳳さんのゴールデと市村さんのテヴィエは安定のお二人だなー、と思いました。
二人でいるのが当然で、必要とされる場所で必要とされることをしている二人が、
言葉で愛を確かめ合うシーンは、何気に若いカップルよりも初々しくて可愛らしかったですv
市村さんのテヴィエは、多分この物語の大人たちの中で、一番思考に柔軟性がある。
娘たちの結婚についても、ロシア人との菅家も、それが結果的に正しいかどうかは別として、
自分の中でちゃんと答えを見つけて、それがベストだと思うことをしている。
でも、そんな彼ですら、チャヴァは死んだ、と言わせる宗教というものの重さに、
なんだか慄然とする思いでした。
そんなにも、彼にとってユダヤの神は絶対的で揺るぎない寄りどこなのか、と。
でもね、何かあるといつも(下手客席天井あたりにいる(笑))神様を見上げて、
相談して、そして頷いていたテヴィエが、
旅立つ時には見上げるだけで頷かなかったように見えたのです。
頷かずに背を向けて、でも、一人立ち尽くすヴァイオリン弾きには頷いた。
それは、たまたまだったのかもしれないし、私の見間違いかもしれない。
でも、もし意図的にテヴィエがそうしたのであるとしたら―――
彼は、何を選び、何をアナテフカに遺したのか。
何を受け入れ、何を拒絶したのか。
その答えを私は見つけることができなかったけど、なんだかとても気になったのでした。

つらつら書いていたら訳の分からない内容になってしまいました(^^;)
このミュージカルの音楽はやっぱり素敵だなあ、とか、
アンサンブルさんの歌声、素晴らしい!!とか、
今井ラザールには是非新天地で幸せになってほしいなあ、とか、
神父様の息子さん、いい声vとか、
ボトルダンスかっこいい!とか、
ツァイテル婆さんめっちゃ可愛いvとか、
5人姉妹が並んだところの身長順がとスカートの長さの変化が微笑ましいとか、
パーチックの世話を焼くモーテルいい人だ、とか、
いろいろ他にも書きたいことはあるのですが、
ちょっと時間がないしきりがないので強制終了いたします(笑)。

年明け早々から地方にも行くこの舞台。
体調を崩しやすい季節ではありますが、大千秋楽までキャストのみなさんもスタッフさんたちも、
元気にこの素晴らしい舞台をたくさんの人に届けられますように。
そしてまたいつか、アナテフカに生きる彼らに出会える時がありますように。

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この記事へのコメント

Judy
2017年12月31日 14:26
読みながら思い出して泣いちゃいました!
いつもながら恭穂さんの人物評が的確で、次女カップルの「柵」と「しがらみ」にはうなりました。
広瀬パーチックの無駄にキラキラ、は確かに(笑)。
沙也加ホーデルの、照明が消える直前の再び毅然とした表情は忘れられません。

三女カップルのチャヴァの頑なさもそうだなーと思ったし(もう声が届かない、の一文に目から鱗)、
フョートカの括弧内コメントには、ちゃんとそこまで読み取ってくださったのだとすごく感激しました。
若返った?には爆笑でした(同感です。実は一番年の差カップルで、婿の中でも最年長なんですけどね)

舞台が1905年に始まって、ラストシーンは1906年の終わりだろうと推測されるので
長女夫婦は手に職もあるし頑張ってアメリカ行きを手にしてほしい。

パーチックはロシア革命後まで生き延びて、そこからホーデルと二人で逃げてほしい。

三女夫婦のクラクフ(アウシュビッツ収容所のある街)が一番厳しそうですが
実は逃げ延びた人も一番多い都市だそうなので
チャヴァには耳聡くなってもらって、フョートカに頑張って稼いでもらって(笑)。

テヴィエ一家には無事にアメリカにたどり着いて、4女・5女と共に幸せになってほしい。

終演後、そんな風に彼らの幸せを祈らずにはいられませんでした。
Judy
2017年12月31日 17:16
今年も楽しく拝読させていただきました。自分のブログを書くときに、読み返して思い出したりもしてました(笑。だいたい地方公演まで時差がありますからねー)

良いお年をお迎えください。
来年もどうぞよろしくお願い致します。
来年こそは、またお会いできますように(人)
恭穂
2018年01月01日 11:25
judyさん、明けましておめでとうございます。
いつも読んでくださってありがとうございます。
最近はあまりちゃんとした記録ができていなくて、
何気に忸怩たる思いなのですが、
judyさんに楽しんでいただけているなら幸いですv

judyさんが書いてくださった彼らの未来。
本当にそんな風になってくれるといいなあ、と、
しみじみ思ってしまいました。
その時々で受け取るものの違う舞台だからこそ、
長く愛されていくのかもしれませんね。

今年はどこかで是非お会いしましょう!
どうぞ良いお正月をお過ごしくださいね。

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