敗者の物語

どんなに願っても。
どんなに焦がれても。
どんなに懸命になっても。
叶うことのない夢があることを、私たちは知っている。

それでも―――


「宝塚BOYS」team SEA

2018.8.11 マチネ 東京芸術劇場プレイハウス 1階I列一桁台

出演:良知真次、藤岡正明、上山竜治、木内健人、百名ヒロキ、石井一彰、東山義久、愛華みれ、山西淳


再演から欠かさず見続けた「宝塚BOYS」。
大好きなこの舞台を5年ぶりに観てきました。
今回は2チーム制なのですが、今年の夏休みはどうにも忙しく(^^;)
とりあえずなじみのある役者さんが多いteam SEAのチケットを1回だけ確保しました。
で、それが思いがけず千穐楽だったわけなのですが・・・

冒頭から大泣きしてしまいました。

いや、5年ぶりとはいえ、大まかな内容は覚えていて、
この上原さんの最初のシーンには身構えていたはずなんですが、
なんというか、一気に気持ちを持っていかれてしまいました。

闇に浮かぶ淡い光の中、一人佇む上原さん(良知真次)。
彼が見た景色。
彼を苛んだ恐怖。
彼が感じた怒り。
彼が堕ちた絶望。
彼が溺れた悲哀。
その果てに、彼が縋った、美しいもの。

台詞のない、短いシーン。
でも、あの濃密な時間は、この後の彼らの懸命さの原点をとてもクリアに見せてくれたのではないかと、
改めて思いました。

そして、紡がれる“今の彼ら”の物語に、蘇る“これまでの彼ら”の記憶に、
笑いと涙の波が怒涛のように押し寄せてきて、
なんだかもうどうしようもなく、ただただ感情を揺さぶられ続けました。

夢に向かって、懸命に―――ただひたすらに懸命に努力する彼ら。
夢と、希望に溢れていたはずの彼らが、
困難な現実に対して、それぞれの方法で頑張り続けた彼らが、
時間の進みと共に、寮の壁に張られた紙が色褪せていくように、
その表情に諦念の影を滲ませていく様が、本当に辛かった。
もう駄目なのだと。
どんなに頑張っても、叶わない夢はあるのだと。
それがわかっていても、その夢に縋り続けた、彼ら。
美しい夢に縋ることでしか、きっとあの時の彼らは未来に目を向けることができなかったんだと、そう思った。
そして、求め、縋っていたその夢が、決して自分の未来には繋がらないのだということを、
それでも、自分たちの目の前には未来への道があるのだということを、
多分2幕の大半の時間をかけて、彼らは一つ一つ呑みこんでいったんだろうなあ、と思った。
だからかな、池田さんから男子部解散を告げられた彼らのそれぞれの悲嘆に、慟哭に、
胸を引き絞られるような気持ちになると同時に、なんだかほっとしている自分がいました。

泣き笑いで肩を組んで歌う彼ら。
夢のステージで、最初は泣き顔だった彼らの表情が、どんどん真剣に、凛々しく、明るくなっていく過程。
最高の仲間たちを紹介するときの、輝くような笑顔。
そして、全てが終わった後、それぞれのやり方で夢を悼み、去っていく彼ら。

懸命に生きる人の姿は、輝いていて、美しくて、滑稽で、悲しくて、
そして、やるせないほどに愛しくて仕方がなくなる。
愛(いと)しくて、愛(かな)しくて、ただ泣きたくなる。
泣きながら、それでも懸命な彼らの姿を一瞬も逃したくなくて、ただ見つめ続ける。

でも、夢のステージには終わりが来て。
ラストシーン、わちゃわちゃとはしゃぎながら、
夢から醒めたような顔で笑いながら―――笑顔を保ちながら、彼らは宝塚を去っていった。
その先には、確かに彼らが歩んでいく未来があって、
その未来は、確かにこの限られた空間の中で懸命に生きた彼らの時間から繋がっているもので、
そう感じさせてくれた彼らの後ろ姿に、なんだか救われたような気持ちになりました。

この物語は、たぶん、“敗者の物語”でもあって。
どんなに頑張っても叶わないことがあることも、再確認させられる。
けれど同時に、池田さんが言う「人生に無駄なことなど一つもない」という言葉を、
敗北は全ての終わりではなく、次の旅路の始まりでもあるのだと、
これ以上ないほどの説得力を持って伝えてくれる未来への物語でもあると思う。
それはもしかしたら、この年齢の彼らが―――いろんな経験を積んできたベテランの彼らが演じるからこそ、
感じられる説得力なのかもしれないなあ、とも思ったり。
いずれにしろ、だからこそ、演じる人にとっても、観る人にとっても、
その心に、人生に、深く刻み込まれる舞台だと、改めて思いました。



上原さん役、良知くん。
冒頭のシーンの深さに魅了されました。
で、その後の稽古場のシーンでのわたわたにめっちゃ和んだv
カーテンを閉じようとして、引っ張ると反対側が開いて、また引っ張ると反対側が・・・
というのを何度もやっているのが、めっちゃ上原さんっぽかったんだけど、
あれはアクシデントだったんでしょうか?(笑)
行動はちょっとわたわたしてたけど、基本的には静かに周りを見て、深く考えて、
懸命に強く在ろうとする人なのかなあ、と思いました。
練習のシーンで、どんどん確実に上手くなっていくのも、上原さんだなあ、と。
始めるきっかけを作ったのは自分なのだから、終わりのきっかけを作るのも自分。
もしかしたら、彼は常にそう思っていたのかな、と、
泣き伏す竹内さんの背を抱きながら笑顔で池田さんを見上げる彼をみて思いました。

竹内さん役、上山くん。
物静かだけど押しの強い竹内さんだなあ、と思いました。
基本的にあまり前に出てくる印象ではなかったので、
男子部解散を告げられた時の激昂にはちょっと圧倒されました。
いやでも懸命さがリミットを越えると爆発しちゃうのは、
終戦時のエピソードでも、途中での星野さんとのやり合いでも提示されてたよね、と後で気づきました(笑)。
練習でマリー役をするときのあの裏声にもびっくりしましたが(^^;)
あれ、大柄な竹内さんが真面目にやってるのがなんだか凄い可愛かった。

というか、あのシーンはほんとにみんなめちゃくちゃ可愛いよね!
エッフェル塔!とか、樹!とか、噴水!とか、月!とか、
いやいやそれは無理があるでしょう!って思いながらも、
合同公演の台本に舞い上がってる彼らが、可愛くて切なくて・・・
そこに君原さんの存在感が加わったら、それはもう泣くしかないよねー。
あのシーンも、ある意味夢のシーンだったのかもしれないなあ、とも思った。

太田川さん役、藤岡くん。
普段の美声を封印して、ちょっと喉が心配になっちゃうような胴間声が、見事に太田川さんでした。
自分のことを語らない彼の在り方がとても自然で、でも知っていて見るととても雄弁で。
一人稽古場で踊る彼の「まだ踊れるやろ。足も上がるやろ」という声に、やっぱり泣けてしまいました。
その後のシーンで、一人だけ取り残されたような顔をしているのも辛かったなあ。
彼は、きっと自分はもうこの場所に戻れないとわかっていて、
わかっているからこそ余計に現実を見ることができなかったんだろうな、と思う。
夢のステージのしーんで、懸命に踊る姿に、なんだかとても胸をうたれました。

長谷川役、木内くん。
個人的に長谷川は元気枠!と思っているのですが、
木内君の長谷川も、元気一杯で、でも旅役者の息子という矜持も感じられて、
観ていてとても気持ちのいい存在だなあ、と感じました。
猪突猛進に見えて、何気に器用貧乏な感じなのかなー。
ラストシーンで、薄荷のドロップに当たっちゃった彼が、
そのドロップを無理やり星野さんに食べさせて、やったー!ってガッツポーズをしてるの、可愛かったv
あれが許されるのは長谷川だけだと思う(笑)。
カーテンコールでマジ泣きしていたけど、年齢的にも凄く役にシンクロする部分があったんだろうな。
そういえば、馬のレッスンのシーンで、指導していた長谷川の扇子が、
馬に迫られた拍子にポーン!と客席の端っこに飛んいってしまったのだけど、
その瞬間に後ろを振り返った表情がちゃんと長谷川で、偉い!と思いました(笑)。

竹田役、百名くん。
しっかりしていて強かで、とてもバランスの良い雰囲気の竹田でした。
割と飄々とした現代っ子な感じなんだけど(当時比)、
だからこそ、父の戦死通知が届いた後の、声にならない慟哭が本当に痛々しかった。
「運がいいとか、悪いとか」
彼の台詞の中でも、特に印象的な言葉。
でも、あの頃、いや、今でも、“運”という言葉を使うことで、
何かを諦め、自分を納得させることを、私たちはたぶんしょっちゅうしていて、
でも、それを彼は良しとしなかったんだなあ。
自分たちが―――誰かが懸命に生きた時間を、その言葉はきっと薄っぺらなものにしてしまうから。
それだけ、彼は自分たちが生きた時間に、誇りを持っていたんだろうと思う。
そういう“竹田幹夫”という男の時間を生きた彼が、この後どんな役者になっていくのか、
それもちょっと楽しみになりました。

山田役、石井くん。
ついこの間「アメリ」で拝見したところだったので、
配役を見た時には石井くんが山田?!と思ったのですが、素晴らしい山田でした!
山田浩二という男の強さ、弱さ、優しさ、そして彼が生きてきた時間、家族との関係。
そういうものを、デフォルメした動きの中に、ちゃんと感じさせてくれた気がする。
兄のことを話す直前に、ふっとその表情が、纏う空気が変わった瞬間には、
なんだか息を呑む思いでした。
彼が感じた疑問、恐怖、無力感―――その根底にある、兄への想い。
そういうものが、言葉を越えて伝わってくる感じで。
男子部解散を告げられた時、かがみこんでずっと顔を覆っていた山田。
これまでも、彼はこうして自分の中の感情を呑みこんできたんだろうか。
そんな風に思って、なんだかたまらない気持になりました。
うん、本当に素晴らしい山田だった。
でもって、石井くんの大きな手がめっちゃかっこいいことにも今回初めて気づいた!(え)

星野さん役、東山さん。
一人だけ前役続投でしたね。
東山さんの他の役も見てみたけど、やっぱり星野さんがお似合いだなあ、としみじみ思いました。
でもって、記憶にあるようにもツンデレ具合が増してたような気がします(笑)。
もしかしたら、私が思っているよりも、星野さんの年齢設定って若いのかな?と思った(え)。
そのくらい、なんというか感情表現がストレートになってたような?
上原さんが始まりと終わりのきっかけを作る存在なのだとしたら、
星野さんは変化のきっかけをつくる存在だったのかな、と思う。
それはたぶん、プロとしての経験を持つ自分にしかできないことだと、そう思っていたのかな、と。
そんなクールに熱い星野さんですが、
馬にじゃれつかれた時の笑顔がめっちゃ可愛くて、ちょっとどうしようかと思いました(笑)。
しかも、その馬の前足が、そのちょっと前まで険悪にやりあってた山田なんだよ・・・!
もちろん、山田の真実が知れてから、この馬のシーンまでは結構な時間が経ってたはずなので、
それまでに二人を含め、BOYSの距離感は縮まってたとは思うんだけど、
あんな子どもみたいな笑顔をしてしまうくらい、
星野さんにとってこの場所はHOMEになってたんだなあ、と思うと、
その後、最初にこのぬるま湯みたいな時間を終わらせようとしたのが星野さんであることが、
なんだかとても残酷で、でも星野さんらしいなあ、と思ったのでした。


君原さん役は愛華さん。
なんというか、とても可愛らしい君原さんでした。
でもって、まさにBOYSのお母さん!という感じの柔らかな在り方。
同時に、夢を諦めた過去を持つ存在として、懸命に彼らに向かい合おうとする姿に、
君原さんがいてくれて本当に良かったなあ、と思いました。
BOYSの前にも、彼女は夢を叶えた少女たちも、夢に破れた少女たちも、
たくさんたくさん見てきているはずで。
そのたびに、君原さんに刻まれた疵は、血を流したり、癒されたりしていたのかなあ。

池田さん役は山西さん。
山路さんのとにかくダンディな池田さんとはまた違った、
強面で不器用で、でも同じように深い情の感じられる池田さんでした。
遊びっぽい部分はあまり感じられなくて、まっすぐに彼らに向かい合っている感じ。
でもって、もの凄いロマンチストなんだなあ・・・
竹内さんに縋られている時の、あの立ち尽くすしかできない、という姿に、
彼がどれだけ男子部の面々を慈しんできたのかが感じられて。
夢の舞台が始まるとき、何かを確認するかのように手を動かす池田さんの後ろ姿に、
ああ、この舞台は池田さんの演出なんだなあ、とすんなり感じられて、
なんだかそれがとても嬉しかったです。


この日はteam SEAの千穐楽で、キャストのみなさんから挨拶がありました。
それぞれに多分凄く思い入れがある舞台で、
マジ泣きするキャストもいれば、はぐらかすように笑いを取ったキャストも、
演じるということに迷いを持った時のことを語ったキャストも、
team SKYを思いやるキャストも、今この時代にこの作品を演じる意味を語ったキャストも
再びこの作品に携われたことをプレゼントのようだと言ったキャストもいました。
その中で、藤岡くんが一瞬マジ泣きした後に言った言葉がとても力強く響きました。

「演劇は、世界を変えると信じている」

その“世界”はごく限られた範囲の、些細な変化なのかもしれない。
でも、きっとその変化で救われる人も、何かを諦める人も、何かを掴み取る人もいるはず。
そしてその変化の先には、多分それぞれの“未来”が確かに続いている。

懸命に生きる人の姿を。
叶わぬ夢があるという現実を。
それでも、未来へと歩き出す彼らを。
決して美しいだけではない形で、この舞台は見せてくれた。
これから先も、きっと沢山の若者が、“彼ら”を演じる。
そんな様々な“彼ら”の夢と現実を、これからも見届けられるといいなあ。
そんな風に、思いました。

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