3月末に桜が咲き始めたな、と思ったら、その後どんどの気温が下がって雪まで降った4月上旬。
4月半ばまで桜が楽しめるなんて初めてで、今年の春はのんびりさんだなー、なんて思っていたのですが、
桜が散ったと思ったら、一気に花が咲き始めました。
山桜。
花水木。
八重桜。
藤。
芍薬。
香薔薇。
鉄線。
躑躅。
浪花茨。
まるで、冬という小さな卵に閉じ込められていた春が、
その殻を破って一気に飛び出して来たような彩りの勢いに、なんだか圧倒される思いです。

もしかしたら、彼女の“言葉”も、今年の春の要だったのかもしれないな。


「奇跡の人」

2019.4.18 マチネ 東京芸術劇場プレイハウス 1階C列一桁台

演出:森新太郎
出演:高畑充希、鈴木梨央、江口のり子、須賀健太、久保田麿希、青山勝、増子倭文江、原康義、益岡徹、
    水野貴以、橋本菜摘、乙倉遥、島田裕仁、福田彩実


前回の公演で初めてこの舞台を観てから4年半。
今回も幸いにして一度、観劇の機会をいただきました。
しかも、2列目ポンプ目の前という、なんというか大迫力の席でした(笑)。
演出は今回も森さんだったので、セットなどは変わらず。
あの窓と扉がたくさんある、けれど閉塞感の強く感じられるセットに、何だか懐かしい気持になりました。
物語に対する基本的な感想は前回観た時とあまり変わらなかったかな。
やっぱり“言葉”というものの深さと怖さと愛しさを感じました。
印象的な使われ方をしていたのが、「言葉」「鍵」「扉」「別れ」。
登場人物一人一人が、それぞれの言葉に、自分だけの意味を持っているように感じられました。

充希ちゃんのアニーは、なんというかその生命力に圧倒されました。
登場シーンは、帽子で顔を隠して椅子に座っているという姿勢なのですが、
その帽子をとって彼女の顔が見えた瞬間に、迸るようなエネルギーを感じた。

その生い立ちから、彼女が持たざるを得なかった強さ。
その経験から、彼女に植え付けられた頑なさ。
その別れから、彼女に刻み付けられた怖れ。
その愛情が包み込む、彼女の幼さ。
その学びから、彼女が見据えた信念。
そして、その約束から、逃れられない彼女の業。

ころころ変わる鮮やかな表情も、強く明確な響きの声に混ざる繊細な揺らぎも、
“アニー・サリヴァン”という弱冠二十歳の女性の複雑な内面を形作るようで、
目を離すことができませんでした。

彼女が、ヘレンという存在に何を視ていたのか。
彼女が抱いた“愛”は、ヘレンの何に向かっていたのか。

前回観たとき、アニーは過去に決別し、ヘレンと共に進むための未来への扉を開けたのだと感じました。
でも、今回は、何だか違う風に感じたのですね。
「ずっと」
「いつまでも」
そう、繰り返しヘレンに語り掛けるアニーの表情には、なんだかぞっとするような暗さがあった。
救えなかった弟との、果たせなかった約束。
その過去を悔やみ、嘆き、恐れていたアニー。
ヘレンと新たに交わしたこの約束は、果たせなかった約束を今度こそ果たそうという前向きさではなく、
もう一度自ら囚われに行くような―――そんな風に感じてしまいました。
なんというか、アニーは今度はヘレンという存在に依存していくのかな、と。
そう感じてしまうような危うさがあったと思う。
・・・うん、まあ、多分誤解なんだけどね(^^;)
でも、充希ちゃんのアニーは、ただ明るくて強いだけではないその存在感が、とても魅力的だったと思います。

ヘレン役の梨央ちゃんは、ドラマでは良く見るけど舞台では初めて。
「どろろ」での声の演技もとても好きだったので、舞台ではどんな感じかなー、と思っていたのですが、
そうだよ、ヘレンは台詞ないよ!と途中で気づきました(笑)。
でも、台詞はなくても凄くたくさんのことを伝えてくれたように思います。
あの小さな体の中に押し込められて、どんどん圧力を上げて行く彼女の知性とか、
“手段”を持たないがゆえの彼女の恐怖や苛立ちとか、
家族との間にきちんと確立している絆とか・・・
お母さんとお父さん、お兄ちゃん、使用人をきちんと区別して対応を変えてるところとか、
なんというか凄いリアルだなあ、と思いました(笑)。
感覚だけが全ての彼女にとって、新しいということはそれだけで不安だし、怖い。
静かで優しい変わらない世界の中に飛び込んできたアニーは、
だからきっとヘレンにとってとても恐ろしい存在だったんじゃないかな、と思う。
変わらない世界を、変える存在。
自分の欲求を、受け止めるけど受け入れてはくれない存在。
だからヘレンは全力で抗った。
でも。
彼女が自分に与えてくれる“新しい何か”は、確実にヘレンの世界を広げた。
自分の抵抗を押さえつけ、同じだけの強さで返してくるその力は、
確実にヘレンという存在の輪郭を明確にした。
そして得た、“言葉”―――
あの瞬間、ヘレンの表情の変化の鮮やかさは、本当に息をのむようでした。
うん、やっぱり凄い役者さんだなあ。
今回が初舞台とのことですが、ぜひ今後もいろんな舞台に出てほしいな、と思います。


でもって、今回実は一番泣かされたのが、須賀くんのジェイムズでした。
きょうだい児の孤独と葛藤を、とても自然に、でも切実に見せてくれた気がします。
冒頭の家族のシーンでの彼の台詞に、いきなり泣かされちゃったよ(^^;)
「きょうだい児」というのは、重い病気をもつ子どものきょうだいのことです。
きょうだいが病気だから。
自分はいい子でいなくちゃいけない。
自分は寂しくても我慢しなくちゃいけない。
自分のことは誰も見てくれない。
自分は病気じゃないから頑張らなくちゃいけない。
―――自分は、いらない子なんだ。
そんな、きょうだい児のいろんな不安や葛藤は、医療現場でも注目されてきているのですが、
ジェイムズって、まさに「きょうだい児」そのものだなあ、と思ってしまったのです。
冗談交じりに露悪的なことを言って父親を挑発する一方で、
ヘレンという存在をごくごく自然に受け入れている。
家族のために何かをしたいと思っていても、その気持ちは父親には届かない。
父親から求められる立派な息子としての自分とのギャップ。
そんな現実を自嘲しながらも、それでも何かを求めて足掻き続ける―――
アニーがヘレンとガーデンハウスに籠ったときの家族の夕食のシーンで、
父と息子の会話の噛み合わなさに、なんだかもう切なくてしかたありませんでした。
それぞれ言っていることはある意味正しいのに、見ている先が少しだけずれている。
その上で、キャプテンが放ったあの言葉―――「子どもに失望するとは別れと同じ」
あの瞬間の、ジェイムズの俯いた横顔が、なんだか忘れられません。
なので、その後彼が爆発した時には、ハラハラしながらも、内心で思いっきり応援しちゃいました!
たぶんこの当時は「きょうだい児」という概念はなかっただろうし、
そもそも名家の長男という立場の彼が求められる彼と、父親の関係性は一般的ではないと思う。
でも、あそこで彼が爆発したことで、きっといろんなことが前に進んだんだろうなあ、と思ったし、
彼自身も一歩を踏み出すことができたんじゃないかなあ。
・・・なんてこと大泣きしながら思っていたのですが、その後プログラムを熟読したら、
ヘレンが生まれた時点でジェイムズは20歳越えてたんですね(^^;)
なんか10代の少年なイメージだったのですが、そもそも前提が違ってた!(え)
いやでもまあ、これは舞台だから、私の中のジェイムズは10代でいいことにしよう(笑)。


江口さんのケイトは、アニーとは質の違う強さが感じられたように思います。
まろやかで滑らかなのだけど、凄く硬質。
内にも外にも熱が伝わるのに、ちょっと時間がかかる感じ?
娘のために自分ができること、自分がすべきこと。
娘にとっての自分がどういう存在であるべきか。
そういうことを努めて冷静に、そして一生懸命考えて行動してきたお母さんなんだと思う。
だからこその、母娘の絆。
そして、ヘレンの世界を形作る根本がケイトの存在だったんじゃないかな、と思う。
それは、もしかしたらある意味完璧な世界で。
でも、それはアニーの来訪により形を変えられた。
「ヘレンの母親は私です!」というあの叫びは、突き刺さるような切実さがあって。
でもその後。
“言葉”を理解し、“言葉”を求めるヘレンの姿に泣き伏す彼女の姿には、
歓喜と共に突きつけられた“別れ”を受け入れる悲しみが溢れていて。
それでも、その“別れ”を自ら受け入れたケイトの強さが、なんだかとても愛しく感じられました。


益岡さんのアーサーは、なんというか、こういうお父さんいるよねー、ってしみじみ思っちゃいました。
地位がある。
教養もある。
強さもある。
頼りがいもある。
もちろん愛情もある。
でも、その行動の全ては、彼の価値観の上に成り立っていて、
その価値観を無意識に周囲にも順守させようとする―――そんなお父さん。
悪気がないところが問題、というか(笑)。
でも、アニーの言葉にうっかり絆されてしまったり、
息子の反抗に憤然としながらも、彼を尊重する懐の深さがあったりと、
とても魅力的なお父さんでもありましたv
多分、この物語の終わりは、家族の新たな試練の始まりだと思うのだけれど、
このお父さんなら、ケイトやジェイムズを支えて、支えられて、
家族を守っていくんじゃないかなあ、と思いました。


他にもいろいろ書きたいことはあったのですが、ちょっと時間切れ!
梨央ちゃんがあんまり大きくならないうちに、また充希ちゃんとの再演があるといいなあ。
そしていつか、梨央ちゃんがアニーを演じるのを見れたら嬉しいv
そんな未来をちょっと夢想してしまいました(笑)。

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