宝石の残骸

二つの心の間で育まれる、世界で一番美しい宝石。
じゃあ、片方の心に生まれた感情は、宝石にはなれなかった感情は、
一体何を生み出すのだろうか。
その感情の残骸に、輝きはないのだろうか。


「怪人と探偵」

2019.9.22 マチネ KAAT神奈川芸術劇場ホール 1階8列20番台
2019.9.29 マチネ KAAT神奈川芸術劇場ホール 1階18列一桁台

原案:江戸川乱歩
作・作詞・楽曲プロデュース:森雪之丞
テーマ音楽:東京スカパラダイスオーケストラ
作曲:杉本雄治
音楽監督:島健
演出:白井晃
出演:中川晃教、加藤和樹、大原櫻子、水田航生。フランク莉奈、今拓哉、樹里咲穂、
   有川マコト、山岸門人、中山義紘、石賀和輝、高橋由美子、六角精児 他


物語の舞台は昭和34年、東京。
奇想天外且つ用意周到な手段で多くの財宝や美術品を奪っている怪人二十面相(中川晃教)を、
探偵団を率いる明智小五郎(加藤和樹)と中村警部(六角精児)率いる警察の攻防が続いていました。
次に怪人二十面相が狙っているのは、北小路元子爵家の家宝「パンドーラの翼」。
予告された日、彼らは、北小路夫妻(今拓哉、樹里咲穂)、
娘のリリカ(大原櫻子)、そして彼女の婚約者安住竜太郎(中川晃教)と共に二十面相を待ち構えていました。
そこに予告通り現れた二十面相と手下たち。
乱闘の中、奪われそうになったパンドーラの翼が突然爆発し、明智は負傷してしまいます。
そして、混乱の中、リリカが連れ去られてしまいました。
その後、捜査の中でパンドーラの翼が偽物であり、北小路家は既に没落しており、
リリカを使って結婚詐欺まがいのことを行っていたことが明らかになりました。
更に明智は、リリカが北小路家の娘ではないことを指摘。
彼は、リリカの本当の過去に関わりがあったのです。
攫われたリリカをわずかな情報から救出に向かった竜太郎は共に捕えられ、
彼らは二十面相の本拠地である鬼面城へと連れ去られます。
リリカを救出し、二十面相を捉えるために明智たちは鬼面城へ潜入しますが・・・


という感じの物語。
実は江戸川乱歩は名前とか作品の概要は知っていてもちゃんと読んだことがなくて、
この物語がどの本を原作にしているのか、いろいろな本の寄せ集めなのか、など、
詳しいことは全然わからなかったりします。
でもって、物語自体はツッコミどころが満載というか、
繊細で複雑なのにめちゃくちゃ力技な感じで、
観ている時はかなり集中しつつ混乱していたのですが(笑)、
観終わってみたら、そんな混乱も全部ひっくるめて「面白かったー!」という感想に辿り着く、
素晴らしいエンターテインメント作品だったように思います。
いや、そもそも江戸川乱歩なんだから何でもありだよね!(誤解)

遠近感を極端にデフォルメした舞台セット。
テンプレなのに見えない深淵を感じさせる登場人物の造形。
ピアノの切ない旋律が印象に残る楽曲。
全てを一纏めにしてこの世界に放り込んでくるようなスカパラのテーマ曲のワクワク感。
答えがあるようで、謎を遺したままの物語。

難しいことはわからないけど、オリジナルの新作ミュージカルとして、
一つ新たなジャンルを切り開いた作品なんじゃないかなあ、と思いました。
再演ももちろん期待したいし、シリーズ化して過去の物語とか、この後の物語とかも観てみたい。
そんな風に感じました。


怪人二十面相役のアッキー。
竜太郎と二役っぽいけど実際は一役、というのを、物語から察することのできる事実というだけでなく、
一人の男が持つ歪みと純粋さとして見せてくれたように思います。
大袈裟で芝居がかった行動をするミステリアスな二十面相が持つ子どものようなまっすぐさ。
悪戯好きでちょっと空回りする愛嬌のある竜太郎が持つ暗い何か。
その“二人が”共にリリカに望む「世界で一番綺麗な宝石」―――
リリカの“真実”を知り、竜太郎の“真実”を知ったリリカの反応を見て、
その宝石が偽物だから手にした上で壊そうとしたのか、
それとも彼女を罵りながらも“自分のものではない”その宝石を奪い取ろうとしたのか・・・
二十面相の感情をきちんとは理解できなかったけど、
いずれにしても、あの宝石は彼にとってどんな形でも手に入れたいものだったんだろうなあ。
杉本さんの楽曲がアッキーとなじみがいいのは「SONG WRITERS」でも感じていたけど、
今回もとても素敵でした。
加藤くんの明智先生や、櫻子ちゃんのリリカとの歌声の馴染もとても綺麗で、
三人の歌うシーンは、二つの曲の旋律が絡み合い、二つの声が重なり、離れ、追いかけあう感じが、
とてもドラマティックで印象に残りました。
そういえば、このシーンで舞台奥に二人の人の影が映ったけど、
あれは三人の動きと一致してなかったから、
見えない心の動きを見せる演出だったのかなあ。
もちろん、アッキー個人の歌声も堪能いたしましたよ。
以前ミュージカルコンサートで歌ってくれた♪世界で一番綺麗な宝石 は、
手下たちを引き連れての演出で、あの時とは違った華やかさというか高揚感があったし、
2幕の♪光が降る、運命を輝かせるために。 では、
久々にアッキーの歌声が空間を満たす感じを体感できて本当に幸せでしたv
それにしても、アッキーのあの声で乱歩の絢爛で耽美な言葉を語られると、
異次元の説得力があるなあ・・・!


明智役の加藤くんは、もう文句のつけようのないかっこよさでした。
ヒーロー補正、っていうんでしょうか?(違)
立ち姿も発する言葉も殺陣も歌声も、何というか完璧。
で、そういう完璧なかっこよさがあるからこそ、
二十面相への固執や、彼に自分を重ねる危うさ、
リリカと再会した後の“探偵”としての部分に“私”が混じっていく様が、
とても生々しく痛々しく感じてしまったのでした。
“正義”というものの認識が違うから対立し合ったけれど、
明智と二十面相は、明智が言うように凄く似ている。
光と影。
個人的には、鏡の中で向かい合うというよりも背中合わせに立っているような印象。
同じものを見ていても見えているものが違う。
互いに同じものを見ているとわかっているのに、相手の見えているものがわからないから、
相手が見ているものが気になる。
そんな風に感じました。


で、そんな二人の間に放り込まれちゃったリリカ役大原櫻子ちゃん。
舞台で拝見するのは初めてなのですが、不思議な響きの声のお嬢さんですね。
鋭い輪郭が常に震えてまろやかさを出しているような・・・うーん、上手く言えない(^^;)
アッキーや加藤くんを相手取って、一歩も引かない強さもありながら、
大きな喪失を抱えたリリカの儚さや、
何層にも重なるような彼女の内面もちゃんと見せてくれました。
リリカが最後に歌う曲を、2回目の時は本当に真剣に
、何も見逃すものか!という気合で見つめてたんですが、
結局リリカの心情を私はちゃんと理解できなかったなあ。
彼女は結局どちらを選んだのかな・・・
個人的には、どちらへの愛も―――どちらとの間に生まれた「宝石」も本物で美しいものだったの思うのです。
でも、その「宝石」はどちらも、真実以外の何かを内包していて。
そしてそれは、3人それぞれが持つ“傷痕”なんじゃないかなあ、と思ったり。
あの曲で、彼女は「生きていくと決めた」と歌い上げるけど、
それは二十面相とではなく、そして明智先生とでもないように私は感じた。
だからこそ、あのラストシーンで彼女が言おうとしたこと、
彼女が語りかけようとした相手が、誰なのかなあ、と悩んでしまったんですが(^^;)
あのラストシーン、探偵事務所の探偵の椅子に座るのが“誰”なのか。
鏡の中の二十面相に囚われた明智なのか。
明智になりすました二十面相なのか。
私はアッキーファンでアッキー贔屓なので、彼は二十面相で、
リリカもとい慶子さんもそれはわかっていると思っていて、
だからこそ加藤くんの明智は、めちゃくちゃ贅沢で最高に完璧な当て馬だったと思うのですが・・・どうかな?


今さんと樹里さんの北小路夫妻は、本当にもう最高でした!
ある意味この物語の中で一番の悪役なんですが、ほんとに憎めない。
それはきっと二人に愛があるからなんだろうなあ。
なんなんですか、あの愛嬌!
二人の曲の時には、こっそり手拍子をしちゃっていましたv
着物で軽快に踊る樹里さんも凄いし、
あの1曲でヘタレさもあくどさも見せてくれる今さんも凄い!
最後、二人は鬼面城から逃げ出せたんでしょうか・・・それだけが心配です(笑)。


フランク莉奈ちゃんは、明智の秘書のマユミ役。
いやー、この役、めっちゃ難しいだろうなあ。
デビューのジュリエットから観ているので、なんだか感慨深くなっちゃいました。
目線はほぼ母です(笑)。
あのソロナンバーは、中途半端だとその後の彼女の行動に説得力がなくなっちゃうし、
やりすぎちゃうと空回りしちゃいそうだし・・・
その微妙なバランスを、凄く頑張ってたなあ、と思います。
最後の彼女の行動は、初回に観た時は中央のメイン3人に集中してたので、
唐突でとてもびっくりしたのですが、
2回目は彼女の行動に最初から注目しながら観ていたら、
マユミがどんどん病んでいく様が凄くリアルで、
あの曲の最後の歌声とか、彼女の心がひび割れていく様が見えるようでした。
水田くん演じる小林少年(イケメンに成長してた!)が、
この後ちゃんと彼女を支えてくれるといいなあ、と思います。


中村警部役の六角精児さんは、なんかTVから飛び出してきたみたいでした(笑)。
動きとか、歌声のニュアンスとか、軽やかなのに確かな存在感がさすがだなあ、と。

ネコ夫人役の高橋由美子さんも、めっちゃ元気に楽しそうに演じていらして、
なんだか嬉しくなってしまいましたv
というか、あの衣裳を着こなして鞭を振り回せる由美子さん、凄い・・・!
アッキーとの歌声の重なりも凄く迫力がありました。
台詞としては描かれないネコ夫人の葛藤もちゃんと見せてくれたかな。
鬼面城で二十面相と明智の決闘が始まったとき、
下手前方で彼女がリリカを守るように抑えているのですが、
その時のリリカを見つめるネコ夫人の表所の凄味といったら!
ネコ夫人にしても、マユミにしても、宝石になりそこなった感情がもたらす痛みが、
本当に鮮やかだなあ、と思ったり。
それにしても、和服の家政婦姿で「にゃ~ん」と言う由美子さん、めっちゃ可愛かったv


この舞台、女性陣の衣裳もとても素敵でした。
仮面舞踏会のシーンのドレスとか、アールデコっぽい感じで可愛かったし、
登場時のリリカのワンピースも、ターンした時にふわっと裾が翻るのが綺麗。
男性陣が基本スーツかタキシードなので余計印象に残ったかな。
幻想のシーンでのカーニバルの衣裳も豪華で、
もっと明るいところで見てみたい!と思いました。


今日が確か大千穐楽のこの舞台。
上でも書いた通り、再演や続編があることを期待しつつ、
12月のTV放映を楽しみにしていようと思います。

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