揺らめく夢

「儚」という漢字を知ったのは、いくつの時だっただろう。

「人」の「夢」は、儚い。

その、有無を言わさない説得力のインパクトと。
パステルカラーのように柔らかな幸せを内包した色鮮やかさと。
シャボン玉のように、不用意に触れるとすぐに消えてしまいそうな不確かさと。
誰にも邪魔されない凛とした強さと。
そして、だからこそ浮かび上がる、胸が痛くなるような愛しさと―――

そんな私の中の「儚」という漢字のイメージそのままの舞台でした。


「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」

2020.1.25 ソワレ シアタークリエ 6列20番台

原作:筒井広志
演出:小林香
出演:井上芳雄、咲妃みゆ、畠中洋、吉野圭吾濱田めぐみ、上原理生、
   仙名彩世、内藤大希、北川理恵、大月さゆ、川口大地、横田剛基、
   松田未莉亜、早川一矢、松野乃知、相川忍、井上一馬、藤咲みどり、
   照井裕隆、土居裕子


物語の舞台は1989年の多分東京。
喫茶店でバイトをしながら作曲家になる夢を追っている悠一(井上芳雄)は、
ある時一人の少女に出会います。
喫茶店にバイトの申し込みに来た彼女―――佳代(咲妃みゆ)。
元気一杯の関西弁を話す、佳代の勢いに圧倒されながらも、
いつか結婚して、旦那さんと子どもにお弁当を渡していってらっしゃいと言う、
そんな悠一にとってはささやかな夢を大切に語るその姿に、
悠一は少しずつ惹かれていきます。
そして佳代も、それまで知らなかった穏やかな優しさを持つ悠一に心を寄せていきます。
孤児で、引き取ってくれた育ての親から虐待を受けて育ったという彼女の過去を知っても、
悠一の気持ちは揺らぐことはなく、不器用に、けれど暖かな関係を築いていく二人。
賑やかで情に篤い喫茶店のマスター夫妻や、常連客にも後押しされ、
二人は共に生きる未来を選び取っていきます。
けれど佳代には秘密がありました。
育ての親に強要され、そしてその親元から飛び出した後も、
生きるために掏りを生業にしていたこと。
そしてもう一つ、佳代自身も知らない彼女の秘密―――
育ての親の暴力で、佳代は一度死んでいること。
今、彼女を生かしているのは、宇宙人―――ラス星人が、
不慮の事故でダメージを負った仲間、ネリーの治療のために一時的に佳代の体に移した、
その宇宙人の生命素であること。
そして、ネリーの体があらかた治癒した今、
仲間たちは佳代の体からネリーの生命素を取り出そうとしていること―――
佳代を見守り続けたラス星人たちは彼女と悠一の懸命に生きる姿を目にし、
自分たちよりもはるかに短い人間の寿命が尽きるまで、二人を見守ろうと決めたその時。
佳代たちの身に大きな災いが降りかかり・・・


というようなFSファンタジーな物語でした。
音楽座のオリジナルミュージカルで、とても有名な作品なのですが、
私はこれまで全く観たことがなく・・・
パンフレットに書かれた出演者のみなさんのこの舞台に対する熱い想いに、
ちょっとびっくりしながらの初観劇になったわけなのですが、
観終わって、これは確かに誰かの人生を変える力のある、
伝説級のミュージカルだ、と素直に思ってしまいました。
なんというか、愛と幸せに満ち溢れた舞台なんですよ。

色鮮やかな衣裳と軽やかな音楽で華やかに物語世界へ引き込む遊園地のシーン。
ケンタウルスに集う人々の、普通の優しさ、普通の幸せ。
宝塚の仕事を依頼された悠一の中から湧きあがる音楽を具現化した、
喜びと希望に胸躍らせるレビューのシーン。
地球に降りたラス星人たちの、滑稽だけれどどこか説得力のある在り方。
冒頭と終盤のミラーハウスのシーンの美しさと緊迫感。
そして、丁寧に描かれる、悠一と佳代の距離感。
孤独に、けれどささやかな夢を胸に抱き続けた一人の少女が、
守られ、愛され、求められることを知っていく、過程。

舞台の、それもミュージカルだからこそ創り出せるリアルなフィクションの世界は、
余りにも綺麗で、余りにも愛しくて・・・
幕間は、1幕の幸せの余韻に夢心地のままに過ぎていきました。
まあ、その後2幕の怒涛の展開にめちゃくちゃ翻弄されたわけですが(^^;)
でもまあ、それもミュージカルの醍醐味ですよね。

この舞台に私が魅了された理由は、物語の展開だったり、音楽だったり、
まさにミュージカル!なシーンだったり(あの引越し業者さん、いいなあv)、
役者さんたちの素晴らしい演技だったりいろいろなわけですが、
どのシーンも主役の二人の、そして二人に心を寄せる人たちの気持ちが、
クリアに伝わってきたことも大きいかな、と思います。

物語終盤の、悠一と、佳代と、ラス星人たちの選択にも心が揺れましたが、
個人的にその最たるものが、2幕、佳代が逮捕された後の喫茶店でのシーンでした。
マスター夫妻や常連さん、悠一の作曲の仕事に関わる人たちが、
未来に向けて頑張ろうと悠一を励ますのですが・・・
悠一を気遣う温かい言葉と、明るい音楽、力を取り戻していく悠一の姿を見ながら、
私は怖くて仕方がなかった。
だって、この人たちは、もう佳代のことを切り捨てている。
彼らが悠一に向ける未来への言葉には、佳代の存在が一つもない。
その後、佳代に伝えて一緒に頑張っていく、という悠一の言葉に、
彼らは戸惑い、非難し、そして徐々に離れていく。
それは、悠一の立場からすれば、本当に悲しく憤りを覚えることで。
そういう悠一の気持ちに寄り添いながらも、
彼らの気持ちも凄く良くわかってしまったんですね。

喫茶店に押し掛けるマスコミ。
彼らが投げかける、「犯罪者を雇っていたという社会的責任」という言葉。
自分たちの知らなかった、佳代の過去。
期待し、支え、これから世界に羽ばたこうとする才能を脅かすスキャンダル。

ストレスフルなその状況の中で、彼らは全てを守ることはできなかった。
自分たちを、自分たちの大切な存在を守るためには、
何かに責任を負わせなければいけなかった。
そして、その優先順位は、自分たちとの距離感で。
多分、佳代と会ったことのない、仕事の関係者たちは、一番に佳代を切り捨てた。
佳代の人となりを知っているマスター夫妻や常連客は、
自分たちの知らない佳代の過去―――罪に驚き、戸惑い、恐れ、
なかったことにすることを選ぶしかなかった。
あの時の、一人一人の立場が、想いが、葛藤が、本当に鮮やかで、心が大きく揺さぶられました。

お伽噺のような物語。
でも、そこには確かに今を生きる私たちと同じリアルがあって。
だからこそ、このミュージカルはこんなにも愛されるのかなあ、と思いました。

本当に素敵な舞台だったので、最初からシーンごとに感想を書くこともできるのだけれど、
なんとなく、この舞台はそういうものではないかな・・・
タイトルにあるように、舞台の中でシャボン玉が何回か出てきます。
舞台と客席の境を漂う、大小の透明な球。
照明を浴びて、その表面の色はキラキラと揺らめいて、そして弾けて消えていきました。
悠一の夢、佳代の夢、悠一の幸せ―――その象徴のようなシャボン玉。
綺麗で、儚くて、不確かなそのシャボン玉は、けれど確かにそこに存在していた。
消えてなくなったその後も、私の中に何かを遺した。
そんな風に思いました。


役者さんのことを、少しずつ。

悠一役、井上くん。
優しく朴訥とした人柄に、しっかり才能のある人の繊細さと鈍感さも感じさせてくれました。
1幕と2幕の終盤は、それぞれ悠一の強さを感じさせてくれるシーンなのだけれど、
1幕の佳代を守るために、暴力に敢然と立ち向かう強さと、
2幕の佳代との未来のために、現実へと立ち向かう強さは、
似て非なるものだな、とその背中を見て思いました。
佳代が戻ってくるまでの10年は描かれないけれど、
それは本当に本当に困難な時間だったと思う。
“記憶喪失”の自分の10年間を埋め、生活の基盤を作りなおすことも、
その先の佳代との未来の道筋を整えることも、
佳代が不在の時間を過ごすことも。
でも、悠一はやり切ったんだなあ・・・
全体的に、悠一はじめ登場人物の行動や感情が事細かに説明されるミュージカルではないのですが、
描かれない部分もちゃんと見えてくるのは、さすがだなあ、と思いました。

佳代役、咲妃さん。
華奢な姿も高く澄んだ歌声も、本当に綺麗で可愛かったですv
佳代の人生は本当に壮絶で。
でも、佳代の幼少期は、現実にきっとあり得ることで。
そのリアルさも、佳代の負った心の傷という形で、ちゃんと見せてくださいました。
だから、幸せの絶頂から突き落とされる2幕は、辛かったなあ。
その前の新居での二人のいちゃいちゃっぷりが、本当に幸せそうだったから余計に。
ピアノを弾きながらの「か・よv」にはどうしようかと思ったけど(^^;)
あの時―――
彼女は、きっと他に取るべき方法があった。
誰かに助けを求めることが、きっとできた。
それだけの関係性を、彼女は築いていたと思う。
でも、彼女に深く刻み込まれた傷痕故に、
彼女がああするしかできなかったということも、リアルな感覚として理解できて。
そのことが本当に切なかったです。
悠一に送り出された7日間で、彼女はピアたちから全てを教えてもらったのかな。
そのことは物語には描かれないけれど。
常に自分を見守ってくれるブレンドの存在は、
自分の中にある“命の素”の存在は、
きっと悠一とは別の意味で彼女を温め、強くしてくれるんだろうなあ、と思いました。

ラス星人役のみなさんも本当に素晴らしかったです!
まさに演劇的表現で彼らの異能を表現されていたし、
(それに翻弄される久保さんな照井さんの体当たり演技も素晴らしく!)
何より重なる歌声の美しさは、まさに宇宙規模だと思いました。いやほんとに。

ピア役の土居さんは、初演から長く佳代役を演じられていたそうで、
この伝説級のミュージカルの立役者のお一人なのですね。
あの美しい歌声は、とある舞台で拝見した時から本当に大好きなのですが、
久々にお聞きして、やっぱり素晴らしいなあ、と思いました。
ピアだけでなく、無機質なラス星人たちの言葉や表情が、
佳代と悠一を見守り、接するにつれて、微かに、けれど確かに変化していくのがわかって、
ネリーの生命素を持つ存在だからではなく、
佳代だから守りたい、という想いになっていくのが、なんだかとても嬉しかったです。
畠中さんのテムキの知的で冷静な雰囲気も素敵だったし、
内藤くんのミラの、無表情なのに感じられる彼の中の素直で熱い部分がとても愛おしかった。
三人が歌う♪守ってブレンド は、めっちゃ泣けた・・・
まあ、あの状況では佳代にとっては困惑するしかなかったでしょうけど(^^;)
でも、困惑しつつも佳代の心が融けていくのも感じられて。
この曲、落ち込んだときとかの栄養剤にいつでも聴けるといいのになー。
♪ドリーム は配信されるらしいですが、この曲もぜひ配信して欲しいです!
そういえば、ミラはラストシーンでネリーと一緒に覚醒するけど、
あれはどういうことなのかなー。
悠一と佳代が一緒に旅だったことを考えると、
佳代の寿命が来てネリーの生命素が回収されるときに、
悠一が持つ彼の生命素的なものがミラへと移される約束とかあったのかな、と思ってみたり。
この辺は、原作を読んだらわかるのかしら?

地球には降りなかった上原くんのゼスは、とにかくめちゃくちゃかっこよかったです!
あの白い長髪ストレートのウィッグと白い衣裳が凄い似合ってた!
出番的には他の3人よりも少ないのですが、
出てくるとリーダー感というか、場を整える雰囲気がありました。
そして声が良い。
悠一の恩師の早瀬先生は、真逆なビジュアルなのですが、
なんというか、こういう作曲家先生いそう!と思ってしまう不思議なリアルさ(笑)。
そこはかとなくうさんくさいところがさすが。
悠一を見限って喫茶店から出るのは早瀬先生が一番早いのだけれど、
その後ろ姿に怒りや呆れだけではなくて、悲しさも感じられたように思いました。
そしてやっぱり声が良い!

喫茶店のマスター夫妻、吉野さんのマスターと濱田さんの春代さんもまた素敵なご夫婦でしたv
悠一と佳代とはまた違った、でも見ていてとても安心感のある、幸せになるお二人。
2幕の喫茶店のシーンで、悠一が佳代を支え続けることを知った後、
この二人も去っていくのですが、マスターのまさに苦渋、という表情も、
佳代の過去を知らされた春代さんの衝撃と後悔と、そして多分受容の涙に、
二人にとって佳代も大切な存在だったのだということが感じられました。
悠一が事故にあってしまったあと、彼らはどれだけ傷ついたのかな。
春代さんは、佳代に会いに行ったり、支えたりしてくれたんじゃないかなあ、と思ってみたり。
佳代が戻ってきた後、4人が笑いあえていたならいいなあ。
でもって、1幕のレビューのシーン、吉野さんと濱田さんも出てらっしゃいました!
席が上手だったので、吉野さんが正面な時があってちょっと嬉しくなってみたりv
何気に豪華なシーンだったなー。
あと、土居さんと濱田さんのおばあちゃん、可愛かったですv

そのほかのみなさんも、それぞれに大活躍!
初めて拝見する方も多かったのですが、
それぞれの役柄を丁寧に作ってらっしゃったのか、観ていて混乱することはありませんでした。
横田くんがめっちゃお兄さんになっててびっくりした・・・

1989年という時代もちょっと懐かしかったです。
衣裳の感じとか、携帯がないとか、黒電話とか、
TVがブラウン管でチャンネルが回すタイプとか(笑)。
この演目はこれからもきっと上演されるのだと思うけど、
こういう時代背景的なところは変わらずにいくのかな。
もともとを知っている方にとっては、今回のクリエでの上演もきっと変わったところや、
新しいところがたくさんあったんだろうな、と思います。
でも、観劇の時に私の周りに座っていた、多分音楽座の頃からのファンと思われる方が、
とても楽しそうに笑って、手拍子して、泣いて、カーテンコールで力いっぱい拍手をしているのを見て、
なんだか私まで嬉しくなってしまいました。
いつか、またこの演目が上演されるときに、
もし観ることができたら、私も損な気持ちになるのかもしれません。
その時が来るのを、楽しみに待っていようと思います。
それにしても、カーテンコールで♪ドリーム をみんなで歌うとか、
しかも、土居さんのソロがあるとか・・・もう泣くしかないですよね?!(笑)

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